アクアコミュニケーターの知恵
水と人々の健康のはなし | Story of people's health and water
PRによってつくられる「名水」「効く水」(3)
科学的には効能がはっきりとしていない「水」が大ブームになることがある。
これは正確に言えば、誰かがブームにしたのである。
メーカーの宣伝部か、メーカーから委託されたPR会社か。
いずれにしても誰かが綿密な計画を練って、「効く水」を世の中に送り出した。
こうしたPRは、「新事実」「専門家の研究」「体験談」の3点セットで展開されることが多い。
まず、PR会社は「新事実」をマスコミに流す。
たとえば海洋深層水なら、海洋深層水という存在そのものがニュースになる。
PR会社からリリースなどを受け取ったメディアは、
- 「海洋深層水とは水深が200メートルより深く、太陽の光が届かないところにある水。海藻や植物プランクトンの繁殖が少なく清浄で、しかもマグネシウムなどのミネラル分が豊富に含まれている」
といったことをニュースにする。
海洋深層水という名前が、大衆にある程度認知された段階で、次は専門家による研究発表をリリースする。
海洋深層水の場合ならこうだ。
- 「マグネシウムは体の代謝作用を改善し、糖尿病などの生活習慣病、心臓病、動脈硬化予防のために重要なミネラルで、その働きで中性脂肪や血糖値が正常値まで低下した」
注意して欲しいのだが、これはマグネシウムの働きについての研究発表だ。
だが、
「海洋深層水にはマグネシウムが豊富に含まれている」
という前の情報と並べることによって、次のように読み替えてしまう。
- 「海洋深層水は体の代謝作用を改善し、糖尿病などの生活習慣病、心臓病、動脈硬化予防のために重要なミネラルで、その働きで中性脂肪や血糖値が正常値まで低下した」
体にいいとされる商品のCMをよく見て欲しい。このような手法を使っているはずだ。
だいたいそんなにマグネシウムを摂取したければ、豆やひじきを食べたほうがよっぽどいいと思うのだが・・・。
すでにお気づきかもしれないが、テレビの健康番組もまったく同じ手法である。
テレビ番組はPR会社のプレゼンの場である。
わかりやすい例えを言えば、赤ワインの販売元からPRを頼まれたとする。
そうしたらPR会社は、
「ポリフェノールに抗酸化作用あり」、
そして
「ポリフェノールを含むのは赤ワイン」
という企画をもっていく。
番組には商品を売り出そうというPR会社が長い行列をつくっている。
そして3つめが体験談だ。
体験談は商品と成分の効能を結びつける働きをする。
海洋深層水の場合なら、海洋深層水を飲んで体の調子がよくなった人に取材し、どのくらい飲んだのか、どのような症状が改善されたのかなどがまとめられる。
このとき体験談が誇張されることもある。
私自身の経験では、健康補助食品を飲んでいる人というのは、こういう類いのものが基本的に好きなので、A商品、B商品、C商品・・・などといくつもの商品を飲んでいることが多い。
正直どれが効いたのかわからないはずだ。
それでもA商品の体験談取材では、B商品、C商品について語られることはなく、
「A商品のおかげで健康になりました。これからも続けていきたいと思います」
という記事になる。
商品パンフレットを見ると、大抵「新事実」「専門家の研究」「体験談」の3点セットになっているものだ。
このように「効く水」はPRによって世の中に出回る。