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アクアスフィア・水教育研究所 代表 橋本淳司の公式ページ

アクアコミュニケーターの知恵

 

 

水をめぐる争いのはなし  |  Story of the battle for water


 

ドナウ川、環境問題をめぐる対立

 

国同士の環境に対する意識の違いが、水問題を紛争へと発展させたことがある。

ドナウ川流域に位置するスロバキアとハンガリー。

1970年、両国は水力発電、治水対策などを目的に、ドナウ川に2つのダムを建設する協定を交わした。

スロバキアは「ガブシコバダム」、
ハンガリーは「ナジュマロシュダム」
をそれぞれ開発することになった。

1983年から共同工事を開始したのだが、実は、ハンガリーはこの計画にあまり乗り気ではなかった。

 

理由は2つある。

1つは、ドナウ川上流に位置するスロバキアの「ガブシコバダム」に比べ、下流に位置するハンガリーの「ナジュマロシュダム」は、発電効率が悪いこと。

もう1つは、水力発電を稼動させると、ハンガリー国内の河川沿いにある湿地帯地帯の地下水位が低下し、生態系に悪影響を与えること。

とくに後者の理由から、世界的に支持されている環境保護NGOドナウ・サークルが、ハンガリー政府に対し、ダム建設中止を訴え、国民投票を要求した。

 

1989年5月、政府は「ナジュマロシュダム」の建設休止を決定し、スロバキア政府にガブシコバダム建設キャンセルを申し入れた。

ところがその時スロバキアのダムはすでに90%完成しており、ダム建設をやめるわけにはいかなった。

 

その後の交渉は平行線を辿ったが、1992 年、ハンガリーは紛争問題の裁定を国際司法裁判所に要求。

国際司法裁判所は両国に罰金の支払いを命じる判決を下した。

環境保護を訴えたハンガリー。

インフラ整備が遅れ、経済成長を優先させる政策をとったスロバキア。

考え方の違いが対立を生んだわけだが、これは成熟期に入った国と、発展途上にある国のあいだなら、どこでも起こりうる話だろう。

たとえば北朝鮮と韓国。

たとえばメコン流域。

紛争を防ぐためには、流域内で協調を保ちながら、環境への負荷を最小限にし、持続的可能な国づくりをするという共通の思想が必要になるだろう。

 

 

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